最初の事業は上手くいかず、4年目には組織の崩壊寸前まで追い込まれた。何度も立ち上げ直したのは、医療の未来を変えるため。多くの失敗から学んだことは、社員が前向きに働ける環境づくりだった。
医療アプリやシステムのデジタル化を図り、医学研究をサポートするメディカルローグ株式会社。患者と医師の明るい未来を目指す野口宏人CEOに、タチアゲの裏側について話を聞いた。
アプリで医師のアイディアを具現化する
─なぜ医療関連のアプリ開発を始めたのでしょうか
これまで多くの医師と話をしてきた中で、彼らは様々なアイディアを持っていることを知っていました。それは「もっとこうしたい」という希望から、「改善して効率をあげたい」という課題まで内容は様々。私自身、前職では期待される治療法の普及に携わってきたため、彼らの気持ちが理解できるのです。また、彼らのアイディアはデジタル化によって実現できると感じていたので、医療関連のアプリ開発を始めました。
─創業時は医療ツーリズム(医療観光)事業をされていたそうですが
医療機器メーカーの退職を決めたタイミングで、中国人のヘッドハンターに声をかけられたのです。彼が言うには、「日本で治療を受けたい中国人がたくさんいる」とのことでした。しかし彼には病院とのネットワークがなく、私は病院との関係があったので一緒にやってほしいと。ただ、実際に始めてみるとなかなかうまくいかず。中国からたくさんの患者が来ることを期待していた私が未熟でした。
同じビジョンを持つ人を採用する
─タチアゲをテーマにお聞きしたいのですが、起業に際して具体的にされたことはありますか
アプリ事業を立ち上げたときは、数ヶ月の準備期間を設けました。前職の医療機器メーカーの看板が強かったので、私個人でも通用するか確かめたかったんです。そこで起業までの3ヶ月間は医療機関を訪問し、医師との打ち合わせを進めていました。結果的にはみなさんの反応も良く、いくつか案件の話もいただけたので手応えを感じました。
「企業の看板がなくなっても個人として勝負できるのか確かめてから起業した」
─資金や人はどのように集めたのでしょうか
創業時は大きなリスクを取らず、自己資金の100万円でスタートしました。その後は受託で活動し、半年で200万円、1年で800万円という流れで売上を伸ばしていきました。また、人件費も最初は抑えたほうが良いかなと思い、とりあえず個人でスタートして2年目から加わってもらいました。
─最初のメンバーは重要だと思うのですが、野口さんが人材を選ぶ際の基準はありましたか
スキルや経験も必要ですが、さらに重要なのはビジョンの共感です。2年目からのメンバーが2名いて、1人はアプリ開発を任せているエンジニア。彼は知人の紹介で声をかけさせていただきました。もう1人のバックオフィスを一任している彼は、たまたま私のオフィスと同じビルで働いていた人です。話してみると、彼も医療を変えたいというビジョンを持っていたので加わってもらいました。
スタート時は実績を作ってバリューを高めた
─2年目以降、どのような流れで事業を拡大していきましたか
創業時は、営業先で提示するポートフォリオを作るために、採算を無視して受注していました。大きな利益は生めませんが、大学病院との取引がバリューになりますから。次第にお客様を紹介いただくようになり、徐々に単価を上げながらサービスの質も高めていった流れです。
─スケールする中で思うようにいかないこともあったそうですが
創業から3年目、とある事業で失敗しました。それまでは受託開発が主だったのですが、「こういうものがあったらいいな」と、自社サービスに挑戦したんです。ところが思いつきとはいえ、制作過程でいくつも機能を追加してしまうわけですね。その結果コストだけが膨れ上がり、最終的には資金がショートしてしまいました。当時は、費用対効果のような知識も中途半端だったので、失敗してから気づくことが多かったです。
社員が動きやすい環境を整えたルールづくり
─では、事業をスケールするために大切なことがあればお聞かせください
会社経営の土台となるシステムの構築が重要です。私は2018年に自社サービスで失敗し、その翌年には組織も崩壊しかけました。そこで、2020年に再生を決めたときは「理念・ビジョン・ミッション」の再定義が必要だなと。過去のそれらを見直して、抽象的な表現や曖昧な内容をすべて具体的なものに改善しました。
また、社内の仕組みやマニュアルも徹底し、必要なタイミングでアップデートしています。以前はルールが確立されていなかったので、いちいち私に確認しないと社員が動けない状態でした。この非効率は大きな弊害があり、社員に案件が来ても独断で受託できなかったのです。その後、ルールが確立された現在は、社員への依頼も増えてリピート率も向上しています。
「社員が前向きに行動できる環境を作れたことは、経営者として大きな財産」と語る野口CEO。
─再度の立ち上げは順調に進みましたか
2020年に会社を立て直して以降、あらゆる面で順調に推移していると思います。特に売上は、創業以来の過去最高(2022年度)を達成することができました。また、ルールを再定義したことで、社員が行動しやすい環境になったと思います。さらに、スタッフからは「医療の発展のために」という前向きな意見も多くなり、経営者としても非常に嬉しいですね。
創業から3年で一度は失敗し、再度の立ち上げで理想の組織を作れたと話す野口CEO。医療の明るい未来のために何度も挑戦するメディカルローグのこれからに注目したい。
会社名 | メディカルローグ株式会社 |
住所 | 東京都港区元赤坂1丁目7番18号 メットライフ元赤坂イースト107 |
代表 | 野口 宏人 |
設立 | 2015年5月18日 |
Web | https://m-d-l.co.jp/ |