スタンフォード大学院の在学中に起業。起業当時は形にばかりこだわり、創業メンバー集めや資金調達に意識が向いていた。しかし、タチアゲに大切なのはマーケットのリサーチと顧客ニーズの分析。
清川忠康(きよかわ ただやす):1982年、大阪府出身。慶応義塾大学法学部を卒業後、インディアナ大学大学院に留学。帰国後UBS証券・経営共創基盤(IGPI)を経たのち、スタンフォード大学経営大学院に留学。同在学中(2011年)オーマイグラス株式会社を創業。著書「スタンフォードの未来を創造する授業」(総合法令出版:2013年)を出版。
会社の創業時は、思い通りにいかないこともある。創業メンバーを集めたり資金を調達したりと、やるべきことも多く、また正解が無いとも言える世界。清川忠康氏は、スタンフォード大学院への留学中にオーマイグラス株式会社を創業。以来、10年以上が経過した清川氏に、タチアゲ時の苦労や裏話をお聞きしました。
大きく価値観が変化したスタンフォード留学
─清川さんは起業を想定してスタンフォードに留学したのでしょうか
いえ、スタンフォードへの留学は特に目的があったわけではありません。客観的に価値を持つであろう「スタンフォード大学」というブランドに惹かれただけですね。漠然と経営者への思いはありましたが、まだ具体的な事業や計画は浮かんでいませんでした。
─スタンフォードで学生生活を送る中で価値観に変化が芽生えたということでしょうか
そうですね。世間のエリート像を求めてスタンフォードに入りましたが、結果的には大きな転換期になったと思います。授業のレベルやクオリティはもちろん高いですし、キャンパス内に浸透する価値観もすべて経験したことのないものでした。スタンフォードでの経験のなかで、次第に世間の基準で生きることには価値がないと思い始めて。自分の人生は自ら作っていくものなんだと気づけました。
形式に気を取られ、理想的ではなかったタチアゲ
─スタンフォードでの学びが、在学中の起業を選択するきっかけになったということですが、多くの企業からオファーが殺到したとお聞きしました。
語学力やスタンフォードという学歴が評価されたんだと思います。海外ベンチャーのファウンダーや海外展開を予定する日本企業など、かなりのオファーをいただいて。だた、自分の人生としてやりたいことを優先し、2011年にオーマイグラスを立ち上げました。
─起業を決めてから、立ち上げに向けて具体的にやったことをお聞かせください
私の場合そのスタートが理想的ではありませんでした。「こういう人が欲しい」とか「これくらいのお金が必要」など、形から入ってしまったんです。会社を組み立てることばかりに意識がいってしまい、いきなり資金調達に走ってしまいました。エンジェル投資家やベンチャーキャピタルから5,000万ほど調達したのですが、本来なら根拠に基づいた金額であるべきですよね。
─まだ卒業の前後ということは実績になる信用がないと思うのですが、資金調達できたのはなぜでしょうか。
スタンフォード大学院という経歴が大きなインパクトになったと思います。しかも、当時はスタンフォードを卒業すると、キャリアアップのために就職するのが一般的でした。私のように、卒業直後に起業するという流れは珍しかったので、投資家やVCが興味を持ってくれたんですね。
「理想的なタチアゲは、顧客のニーズやプロダクト規模を設定してからの組織づくりや資金調達のはず。完全に逆をやってしまいました」と話す清川CEO。
─理想的なスタートでなかったとのことですが、当時を振り返ってこうしておけば良かったと思うことはありますか
組織の構築や資金調達の前に、まずはマーケットをリサーチすべきでした。最初にどんなサービスを提供するか考え、そこにニーズがあるのか調査する。当時は形式ばかり意識してしまい、それらを後回しにしていました。本来なら、まずは市場をリサーチして、顧客のニーズに絞って競争優位性を確保することが重要です。
─手がけるサービスやプロダクトを徹底的に深掘りする必要があると
おっしゃる通りです。それまでは、儲かると判断すると手を出すという方針でした。それでもある程度は儲かるんですが、結局は競合も参入するケースが多いため事業がスケールしにくいんです。しかも事業がスタートすれば、時間もお金もそれなりに投下することになります。安易に手を出して中途半端で終わるより、最初から突き抜けられる一点に集中したほうがビジネスとして正解ですよね。
メンバー集めは経歴がクレジットとなった
─創業メンバーは、どのように集めたのでしょうか
知人の紹介とMeetupなどのベンチャーが集まるイベントですね。起業を決めてからは「こういう人材を探している」と日頃から口にしていたんです。また、イベントでは起業の意識が高い人が多く、有益な出会いや繋がりが持てました。
─優秀なメンバーをどのように巻き込んだんでしょうか
慶応大学からのスタンフォード大学院卒という経歴に、興味を持ってくれる人が多かったですね。その後、プロダクトマネージャーの経験者をCOOに置いて、あとはエンジニアなど4名と走り出しました。
事業を大きくするための最優先は「集客」
─オーマイグラスはEC事業でスタートしたわけですが、どのようにスケールしたのでしょうか?
はじめは、ブログと広告に力を入れました。当時はオウンドメディアを持っていなかったので、集客のためにひたすらブログを書いていたんです。その後、オウンドメディアを立ち上げてからは、自社メディアの走りということで頻繁に取材を受けていました。
「当時はオウンドメディアの走りだったことで、非常に多くのメディアから注目いただくことができました」
─集客に力を入れていたということですが、創業から10年以上経っている今でも変わらないですか?
やはり集客ありきですね。今でもその考え方は変わりません。オウンドメディアやSNS、広告など、様々な集客方法がありますが、結局はすべて天井にいきつくと思っています。一方、大きく成功しているビジネスを見ると、独自の集客ノウハウを持っているんです。商品だけでは差別化ができない時代だからこそ、会社をスケールするにあたって集客が最優先なんです。
会社や事業を立ち上げる際、経営者は「人」と「お金」に目が向きがちになることがあります。清川氏も組織づくりや資金調達など形から入って上手くいかなかった。重要なことは、形式ではなく市場リサーチと顧客ニーズの把握と語っていました。これから事業を立ち上げる人にとって、非常に有益なアドバイスを聞くことができました。清川さんありがとうございました。
会社名 | オーマイグラス株式会社 (英文表記:Oh My Glasses Inc.) |
住所 | 東京都港区芝3-17-15 クリエート三田 307 |
代表 | 清川 忠康 |
設立 | 2011年7月15日 |
Web | https://www.ohmyglasses.co.jp/ |