今となってはFUNGOの出発点となった三宿店。ところが、その物件を気に入ったのはなんと自分だけ。誰に反対されようと、自分の信じた「行ける!」という感覚を否定してはいけない。
関 俊一郎(セキ シュンイチロウ):株式会社ファンゴー代表取締役。長野県出身。高校を卒業後、カリフォルニア大学バークレー校へ進学。帰国後はコンサルティング会社での勤務を経たのち、1995年にサンドイッチ・ハンバーガー専門店「FUNGO」を東京、三宿にオープン。
サンドイッチ・ハンバーガー・アップルパイ専門店を仕掛け、メディアからも注目を浴び続けるFUNGO。6年のアメリカ生活で影響を受けた食文化、サンドイッチとハンバーガーを日本で展開したパイオニアでもある関氏に話を聞きました。
周囲の反対にブレることなく自分の感性を信じた
─記念すべき1号店のFUNGOをオープンする当初、関さんが気に入った物件に否定的な意見があったそうですね
1号店となった三宿の物件は、かなり周囲から反対されたんです。「駅が遠いからダメ」とか、「天井が低いし、陽も当たらない」などですね。あげく、「そもそも何をやっても上手くいかない物件だから」とまで言われました(笑)。ただ、私はマーケティングのようなビジネス理論だけでなく、感覚的な部分も大切にするタイプなんです。
─かなりの言われようですね(笑)。関さんの心は折れなかったんですか
私としては、すでにアメリカで見たバーガーショップのイメージが湧いていました。しかも目の前が公園なので、犬の散歩にみなさんが通る場所だと思ったんですね。テラス席を儲ければ、飼い主さんにとってこのロケーションこそが最高なんだと。ですから、周りからなにを言われてもまったく気にならなかったです。
サンドイッチはパンを具材で彩るアート
─オープンに向けた施工の段階で、すでにメディアから注目されていたそうですね
オープン前にファッション雑誌のJJから撮影依頼が来たんです。お店の工事が進む中で、すでにアメリカらしい格好よさが出ていたんだと思います。メニューから内装、什器類に至るまで、私が味わったアメリカの空気感をふんだんに詰め込みました。
また、これは私の思いでもあるのですが、「sandwich・art of sandwich」と描いて壁に貼ったんです。アートというのは、白いキャンバスに様々な絵の具を用いて描かれていますよね。サンドイッチもまったく同様で、具材とフィーリングによって味も見た目も楽しめると思うんです。
「 白いキャンバスを絵の具で彩るように、自分好みの具材で完成するアーティスティックな要素がサンドイッチの魅力」
─食べるためのサンドイッチを作品としても捉えているということですか
その通りです。サンドイッチは単なるパンではなく、こんなに楽しく素晴らしい食べ物なんだと伝えたかったんです。あの頃は店内に貼られたメッセージを見た人が、次々に店内に入ってきてくれましたね。ですから、こだわった内装だけでなく、私が伝えたいメッセージもオープン前の認知に繋がったと思っています。
100円バーガーの時代に1,000円以上の価格で勝負
─最初に来てくれたお客さんは印象的だったのではないですか
私自身も現場にいたので覚えていますし、実は初めてのお客さんはデリバリーでした。もちろん、最初に来店されお客さんもしっかり覚えています。11:00のオープンと同時に来られた方で、トレンチコートを着た男性でした。叫びたいほど嬉しかったですが、初めての注文にバタついて喜びを噛みしめる余裕はなかったです(笑)。
─1号店のオープンが1995年ということで、当時としては珍しい事業だったと思います。店舗デザインや世界観など、新しいビジネスモデルに不安はありませんでしたか?
おっしゃる通りで、すべてにおいてゼロイチというか認知をしてもらう作業がありました。現在では当たり前のラテも、当時は「なにそれ?」だったり、「サンドイッチって三角じゃないの?」と言われたり。また、マクドナルドには100円バーガーがあった時代なので、「なぜハンバーガーが千円もするんだ!」と怒鳴られたこともありましたよ(笑)。
─雑誌や映画ではアメリカの空間は知っていたし、だからこそ雰囲気に惹かれる人が多かった。ところが、値段やメニューは現地を体験しないとわからないですよね。
その通りですし、新しいサービスやプロダクトにはゼロイチがとても重要なんです。例をあげると、クロード・モネの睡蓮という作品は実は200点以上も存在します。ひとつだけを何年も塗り重ねるというアートもありますが、モネは過去作を過去のものとして描き直し続けてきた。どれほどそれが素晴らしかったとしても、新しいキャンバスでゼロイチを繰り返したんです。
新しいタチアゲは、「売ること+知ってもらう」が重要
─これから新しいタチアゲを考えている人へのメッセージがあればお願いします
まず、サンドイッチは安いとか、三角でなくてはいけないという過去に囚われたら新しいものは生まれません。発明も同様で、はじめて世に出たiPhoneを否定した人はかなり多かったんです。ところが、現在ではスマホを持っていない人なんてごく僅かじゃないですか。
「 従来のサンドイッチはコンビニが主流だったので、FUNGOのタチアゲは認知を広めながら運営していました」
─確かに、新しいサービスは消費者が知らないという場所からのスタートですね
要は、すでに基礎研究されているアイディアを製品化した時点で、あらゆるサービスが発明だと私は思っています。白いキャンバスと絵の具があるように、そこにはパンと様々な具材がすでにあったんです。過去の固定観念を変えれば、そこに新しいビジネスが立ち上がると思います。ですから、世間の常識や周りの意見に振り回されず、自分の思いを信じて挑戦してほしいです。
ビジネスには、スキル・マーケティング・参入時期など、一般的に重要視されているポイントがあります。ところが関氏は、新たな挑戦のためには定説を否定することも大切だととおっしゃいました。これから新たなサービスを始める方にとって、とても考えさせられるメッセージだったのではないでしょうか。
会社名 | 株式会社 ファンゴー |
住所 | 東京都世田谷区三軒茶屋1-18-11 1F |
代表 | 関 俊一郎 |
設立 | 1995年12月 |
Web | https://www.fungo.com/m_top.html |