履歴書は役に立たないし、面接だけで才能なんて見抜けない。働きながら育て、才能を開花させるのが上司の役目。「とりあえず雇ってしまえ」ですよ(笑)
独学でイタリア料理を学んだのち、北海道江別市に「リストランテ薫」をオープン。ミシュランガイド北海道にて1つ星を獲得し、2018年には自身の名を冠した「長谷川稔(現 薫 HIROO)」を東京都広尾にオープン。今ではシェフとして店に立つだけでなく、「長谷川稔Lab」のプロデュースも行う。立ち上げに欠かせない「採用」を中心に、氏が理想と考える会社について語っていただいた。
魚を捌けなかった新人でも一流の料理人に育つ
─事業やサービスにとって人材は重要だと思います。長谷川さん独自の採用基準があればお聞かせください
採用基準なんてありません。面接に来た人から順番に採用してます(笑)。履歴書なんて参考程度だし、面接だけで才能を見抜くなんて無理じゃないですか。今は採用担当ではないので、採用基準を踏まえて面接してると聞いてます。私はそこまで気にしなくてもいいと思ってますけどね。
─闇雲に採用すると、いわゆる「使えない」とされる人材に当たることもあると思うのですが
私には、そもそも「使えない人」という概念がありません。部下を使えないと発言する人は、育てる能力がない上司や経営者だと思ってます。業務を滞りなくできるレベルにすら育てられないわけですよね。私が雇った子の中には、魚すら捌けないスタッフがいましたが、今では一流店で料理人をしてますよ。
─それぞれの良さを見つけて、伸ばしてあげるって大切ですよね
その通りです。全員を一流の料理人とはいかなくても、一般的なレベル育成は上司のマネジメント次第でなんとでもなる。部下を「使える」「使えない」で分ける人は面接すべきではないし、指示する立場にいないほうがいいと思います。
部下の能力を引き出し、開花させる上司の役目
─採用した時点では、料理の知識やスキルがない人もいると思います。長谷川さんはどのように育てているのでしょうか
まずは、理不尽な環境を作らないようにしてます。一般的に、職人の世界は上下関係が厳しいのですが、悪い方向に作用してるケースが多い。上司の物差しで物事を押し付けたり、意見しようものなら「お前ごときが」と否定したり。上下関係も大切ですが、これでは人が育つ環境とは言えない。仮に有能な人材でも、いずれモチベーションを保てず辞めてしまいます。上に立つ者は、スタッフの才能をいかに開花させるかが役目なんです。前向きになれる環境で、実践の数を増やしたほうが圧倒的に育ちますよ。
「見て覚えろ!なんて時代錯誤もいいところ。自分が経験したとしても、悪しき慣習は断ち切っていかないと次の世代が育ちません」
─働くことへの楽しさや、喜びを感じられる環境作りが上司の役目だと
おっしゃる通りです。人って、楽しさや喜びを感じると前向きになれるじゃないですか。ここを改善しようとか、次はこうすればいいかなと思える土台が重要なんです。初めは未熟でも、数を打てば成功の数も増えますし、その積み重ねを「成長」と呼ぶのではないでしょうか。上司や経営者は、部下が失敗した責任を取るだけでいいし、それが本来の役目だと思います。
会社の戦略に自分の感情を持ち込んではいけない
─長谷川さんはお店のプロデュースや商品開発も手掛けてますが、プロジェクトはご自身で判断されるのでしょうか
基本的にはKAORUのオーナーが決定し、私はサポートする形をとってます。基本、オーナーの施策には協力するのが私の方針です。結果的にそれでうまくいってますしね。
─自分の感情と相反する施策の場合、受け入れる難しさはないのでしょうか
気持ちの面では確かに難しいですよね。ただ、“ビジネスとして決まった打ち手”として、そこは機械のように割り切ってます。私自身、「オーナーを優れた経営者として見てる」という信頼関係もあると思います。決定した戦略には感情を持ち込まず、私ができることはなんだろうと考えて、淡々とやるべき事に集中してます。
会社の目的=関わるすべての人を幸せにする
─引き続き会社がスケールする中で、長谷川さんの動きはどうなっていくのでしょう
基本的にはオーナーが戦略を立て、私はサポートの役目で変わらないですね。私がやりたいこともありますけど、いずれ創業して始めれば良いと思ってます。今は株式会社KAORUの戦略の下、経営も含め、あらゆるスキルや知識を学んでる状態です。私自身の満足度はどうでもいい。
「会社に所属する限り、“あれがやりたい”、“その方法は好きじゃない”なんて不要です。雇われて持つ権利と、選り好みは別の問題ですから」
突き詰めると、会社の目的って理想的な経営だと思うんです。利益を生んで税金を納め、従業員の給料や取引先にも滞りなく支払いする。関わる人を幸せにするのが目的なので、他人の会社にいる間は自分の感情なんて不要だと思う。やりたいかどうかより、家族を守るために働くお父さんやお母さんと同じです。
─組織において、有能な人材は欠かせない。立ち上げともなれば、さらに重要ともなる採用。有能な人材を求める会社は多いが、一定までなら誰でも育つと長谷川氏は言う。逆にあるレベルにすら育てられないなら、上司の能力の問題かもしれない。少子化が確実な将来を見据え、育成が課題の最上位になるとも言える。
会社名 | 株式会社KAORU |
住所 | 東京都港区南麻布4‐5‐66 |
代表 | 長谷川稔 |
設立 | 2017年09月 |